Oct 22, 2017

キングコング西野亮廣氏まで参戦、図書館が売上を阻害してる?

江別市情報図書館。効果的にレンガが使われており、「れんがのまち」を体現している建築(暗い写真しかなくて、残念…)

 
こんにちは、江別市議会議員の堀です。またもやブログの更新まで、すっかり時間が空いてしまいました… 申し訳ないです。今回は、巷で話題になっている図書館論争のことについて書きます。

全国図書館大会で、文藝春秋の松井清人社長が「図書館での文庫本の貸し出し中止を求める意見を表明」したことに端を発し、「図書館が本の売上を阻害してる論争」が盛んです。いや、最初は、じぶんのまわりだけなのかなーと思って、知人のFacebookにコメントしたりしてやりすごしながら、たびたびこういう話は出版業界側から上がるのって、ま、いつものことだよね。そう、思っておりました。そしたらですよ、お笑い芸人のキングコング西野亮廣氏まで、この図書館論争に参加されているではないですか笑。

…これは、まずいことになりましたよ。ごく一部の情報のみで、はじめて図書館の議論に参加した方々が、「そうだそうだ!」とかなるとえらいこっちゃです。というか、もともと広告の仕事をしていた僕としては、論争をうまく西野氏のマーケティングの具に使われたなーとか邪推してみたり(てか、プロが背後でPR戦術を書いてるよね?笑)

キングコング西野氏のスタンドプレーについては、この論争には関係ないので、置いておいてですね。微力ではありますが、出版関係者でもあり、基礎自治体関係者でもあるというレアな属性を持っている僕が、この件について書いた方がいんじゃないかなと変な使命感を感じてですね、重い腰を上げてブログを更新です!(いや、ほんと、更新頻度が低くてすみません…)

 
 

: 1. 図書館の課題

 
図書館は、貸本屋。すなわち、貸出冊数ないし利用者数至上主義から脱却。あるいは、貸本屋ではないという立場の発信。この論争だけが理由ではないですが、いよいよこのことが求められている時期に来ているのです。

本を貸すのが、図書館の目的じゃない。本を貸すという手段を通じて、読書振興・資料保存・住民課題解決を図る。この姿勢を強く打ち出していれば、出版社からの不満は出にくい(出しにくい)はずです。こうした出版業界の一部から起こる主張に対抗できる、強度のある根拠・説明・ストーリーを図書館側でも用意する必要性があるのではないでしょうか。

ちなみに図書館法第二条において、「図書、記録その他必要な資料を収集し、整理し、保存して、一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエーション等に資することを目的とする施設」と図書館の定義されており、社会教育法第九条において、「図書館及び博物館は、社会教育のための機関とする」と規定されております。そもそもの教育の目的については、教育基本法第一条において、「教育は、人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない」とし、第三条の生涯学習の理念では、「国民一人一人が、自己の人格を磨き、豊かな人生を送ることができるよう、その生涯にわたって、あらゆる機会に、あらゆる場所において学習することができ、その成果を適切に生かすことのできる社会の実現が図られなければならない」とされており、それらに基づく図書館[★1]と書店[★2]の目的は、大きく異なるものであることは言うまでもありません。

そうした背景を持つ図書館が、出版社の批判に全く当たらないかと言えば、僕はそうとは考えておりません。江別市情報図書館においてはないのですが、ベストセラーを過度に複本(同じ本を所蔵すること)する図書館もあります。行政は、その事業に対してなんらかの評価(税の使用についての説明責任を果たすこと)をしなければならないので、計測しやすい貸出冊数と利用者数が採用されやすいです。リクエストに応じてベストセラーを排架すれば、貸出冊数も利用者数も伸びるでしょう。とは言っても、複本自体が悪というわけでもないのです。本は消耗品という側面もあるので、利用が多く耐久の限界を超えてしまう本については、やはり複本が必要です。二者択一が有り得ないのは世の中の常ですが、とかく行政の性質(一つの判断によって、影響を受ける人が多い)は是非の白黒が付けられず、時代・地域特性・執行権の性格など、さまざまな要素が絡み合って結論が選ばれていきます。

さて、この貸出。実は、図書館の歴史のなかで長く主役であったわけではないです。そもそもの図書館は、図書保存重視だったのです。だから貸出重視の理念というのは、その時代においてはそれも先進的なもので、保存から貸出へ、そうした市民にひらかれた図書館として先陣を切っていったのが、日野市立図書館だったりします。図書保存の時代が1.0、図書貸出の時代が2.0、そこから50年ほどが経過し、図書効果の時代という「図書館3.0」を構想すべき曲がり角に差し掛かっているのです。

こうした図書館のあり方の変遷(日本図書館協会の提起や文部科学省の指針)、貸出冊数および利用者数ではない図書館評価(神奈川県立図書館)については、議会での提言(議会用語で、「一般質問」と言います)に詳しくまとめてあるので、もしよかったらご覧になってみてください。なお、そのさい実施した一般質問の項目は、以下のようなものでした。

01:公立図書館のあり方について
02:地域課題を解決する公立図書館をどのようにつくるかについて
03:行政施策を推進する公立図書館をどのようにつくるかについて
04:協働のまちづくりを進めるための公立図書館の役割について
05:公立図書館の評価手法について
06:江別市情報図書館外の図書館機能の充実について
07:江別市情報図書館と他の図書館との連携による読書環境の整備について
08:こども政策と公立図書館の関連について
09:情報政策と公立図書館の関連について
10:公共施設に対する市の考え方について

質問を書いていて思った感想としては、文科省はいいこと「は」言ってるよねってこと。最近の江別市情報図書館ですが、「ビジネス支援コーナー」を設置したとのことでした。もともと江別市の起業担当部署(企業立地課)では、「図書館の資料を活用してみませんか!」というページを江別市ウェブサイトのなかで作成しているため、今後の展開に期待したいと思います。前回は図書館の最初の質問だったので、あり方についてだったり、鳥瞰的・抽象的な質問でしたが、次回は以下のような虫瞰的・具体的な質問を実施しようと考えております。

01:館長の役割について
02:司書の役割について
03:図書館ボランティアについて
04:地域の情報ハブとしての図書館について
05:図書館と市総合戦略の関連について

常勤司書が、必要だ。そしてその司書のなかから、館長(司書館長)が選任されるべきだ。そのように思ってはいるのですが、そりゃそれは望ましいけど、慢性的な人手不足で現場はそれどこじゃないというような硬直に、どんな解決策があるのか悩みます。もし良いアイデア・事例がありましたら、お知らせいただけるとうれしいです。

…図書館愛が強くて、図書館の話が長くなりました。次、出版社に移ります。

 
 

: 2. 出版社の課題

 
出版社は、所有したくなる本をつくれ。本を売るな、著者を売れ。これに、尽きると思うんですよね…(以上笑)。エビデンスはないんですけど、図書館の取り組み(図書貸出だけでなく、児童などに対する読み聞かせなど)による読書習慣の定着が、本の売り上げに寄与していないはずがないです。

では、誰がエビデンスを取るのか。これ、出版社側にも図書館側にも、明確なメリットがない話なんですよね… でも議論の土台としては、とても大事な基礎調査です。では、誰の役割なのか。

これは、学者の役割だと思うんですよね。第三者であり、学術の発展が図られるこの調査は、ぜひ大学などの研究機関に人肌脱いでもらいたいです。

…あ、そういえば、僕の知り合いにいましたよ。岡本さん。うちで出版してくれた本の著者です。司書資格を取ろうとしてるみたいだし、県立大教員だから公務員でもある。またこれも、レアな属性。そしたらややもすると、編集するのはこれまたレアな属性を持つ僕。めでたく役割が当たり、当事者になっちゃう?笑。本当に図書館の本を出版することになったら、ええ、所有したくなる本になるよう努めて参ります
 


★1:図書館法の適応を除外している「愛知県図書館」や、条例上は教育委員会の設置施設だけど、中心市街地活性化施設として市長部局が所管する(補助執行と思われる)「岡崎市立中央図書館」ような例もあり、図書館がすべて社会教育施設であるとは言えない時代になって来てはいますが、いずれにしても公共政策を顕現させる施設であることに変わりはないです。なお、教育基本法は、平成18年に改正されています。

★2:八戸市には、「八戸ブックセンター」という市営書店があって、公共としての書店という観点もあるなと(民業圧迫にならないよう、採算が取れにくい専門書などを販売しているとのこと)。過疎地であれば、図書館と書店を一緒にした「図書店」というような形態もあり得るんじゃないかとも思います。

 
 
horidot

編集者議員・堀直人
http://ebetsu2.net/

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